長尾半平(1865-1936)

 長尾は明治24年東大工科土木を卒業して台湾総督府に勤務していたが、明治33年4月からロンドンに滞在していた。漱石とは2番目の下宿(ハムステッド)で同じ屋根の下で暮らした。漱石の部屋が天井が低く、約6畳位の部屋だけだったのに比較して、長尾は居間と寝室付きの豪勢な部屋を借りていた。

 長尾については漱石のエッセイ『過去の匂い』に、以下のように書かれている。
「K君の部屋は美しい絨毯が敷いてあって、白絹の窓掛けが下がっていて、立派な安楽椅子とロッキング・チェアーが備え付けてある上に、小さな寝室が別に付属している。何より嬉しいのは断えず暖炉に火を焚いて、惜しげもなく光った石炭を崩していることである。
是から自分はK君と二人で茶を飲むことにした。昼はよく近所の料理店へ一緒に出かけた。K君は何でも築港の調査に着ているとか言って、大分金を持っていた。家にいると、海老茶の繻子(しゅす)に花鳥の刺繍のあるドレッシング・ガウンを着て、甚だ愉快そうであった。之に反して自分は日本を出たままの着物が大分汚れて、見共ない始末であった。K君は余りだと言って新調の費用を貸して呉れた。」


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