帰国が近づいた 1902 年の秋、漱石は神経に異常をきたしたらしく殆ど部屋に篭城し読書に専念していた。 心配した下宿のリール姉妹や友人の誰かが気分転換にスコットランドの旅を進めた。漱石の短編集『永日小品』の「昔」はこのときの旅行記である。
「ピトロクリーの谷は秋の真下にある。十月の日が、眼に入る野と林を暖かい色に染めた中に、人は寝たり起きたりしている。・・・ピトロクリーの谷は此の時百年の昔、二百年の昔にかへつて、安々と寂びて仕舞ふ・・・」と書いている。